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2021年12月7日

セルフ・キャリアドックは離転職を助長する?

育成支援図鑑

 

キャリアコンサルタント&広報担当 鈴木さくらです。

過日、弊社からリリースしたこちらの商品

 

今回は企業内キャリアコンサルティングとして、厚生労働省がその導入を進める『セルフ・キャリアドック』に寄せられる最大の懸念点とその明確な回答についてお届けしますね。

 

 

 

■セルフ・キャリアドックって?

 

まだまだ認知度が高くない、キャリアコンサルタントという資格とキャリアコンサルティングという支援。そもそものところで、まずはセルフ・キャリアドックってなあに?という質問から答えます!

 

厚生労働省の掲げた数値目標では、2024年度末までに国家資格キャリアコンサルタントを10万人養成し、集中養成期間となる2019年度末には7万9千人を目指していましたが、その道のりには後れを伴っていて、やっと6万人を超えた状況です。厚労省としても引き続き、企業内キャリアコンサルティングをますます進めていきたい意向があります。

 

今年3月、厚労省から5年ごとに出されている、2021年度から2025年度までの5年間にわたる職業能力開発施策の基本方針を示した「第11次職業能力開発基本計画」においても、労働者の自律的・主体的なキャリア形成を支援すべくキャリアコンサルティングの推進が明言されました。

 

企業内キャリアコンサルティングの代表施策であるセルフ・キャリアドックとは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的かつ定期的に従業員のキャリア支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取り組み、また、そのための企業内の「仕組み」のことをいいます。

 

これまでの人材育成に関する様々な施策は、組織側の視点から組織にとって必須なマインドやスキル、知識の獲得や向上を目指すという観点から実施されてきました。一方、セルフ・キャリアドックは組織側の視点に加え、従業員自身が主体性を発揮し、キャリア開発を実践することを重視・尊重する人材育成を促進・実現する仕組みなのです。

 

 

 

■離転職を助長するんじゃないの?

 

経営者の方々から寄せられる質問として一番多いのは、「従業員の主体的なキャリア形成を支援してくれちゃったら、従業員が自分の本当にやりたいことに気づいちゃって、ここの会社じゃなかったわということになって、離転職しちゃうんじゃないの?」というもの。

 

これが従業員に対するキャリアコンサルティングの一番の懸念点と言ってもいいでしょう。「セルフ・キャリアドックなんていう施策なんてコワくて導入できんわ!」という声です。

 

なるほどたしかに一見ごもっともな懸念です。予算かけてせっかく導入したのに、人材の流出につながってしまったら元も子もないですよね。

 

果たして、この懸念は正しいのでしょうか?

 

 

 

■目的が違います

 

その懸念はセルフ・キャリアドックの目的から外れているんです。

 

キャリアの理論家ダグラス・ホールの考え方にもとづくならば、「組織内キャリアコンサルティングで行う従業員への支援は、個人のアダプタビリティ(組織への適合性)と自己理解を高めることであり、その結果、積極的行動と高業績を引き出すこと」が目的です。

 

つまり、セルフ・キャリアドックによって従業員個人の自己理解ばかり進めてアダプタビリティ(組織への適合)に取り組まないならば、離転職を助長してしまい、たしかに経営者の方々が懸念する事態に陥ってしまいます。

 

ですが、セルフ・キャリアドックにおいて、従業員の自己理解(興味関心、スキル、能力、経験、価値観などの理解)を促して自らのニーズに気づいてもらいつつ、同時に組織の方向性を認識しながら組織から求められることや役割、期待を理解していきます。自己理解で深められたこの自分自身を会社でどう活かせられるか、どう適合できるか、組織への適合性を高めていく支援も一緒にしていく必要があります。

 

ポイントは、自己理解とアダプタビリティのワンセット。どちらか一方に偏ることなく、車の両輪のようにバランスよく回していくのがセルフ・キャリアドックの最大のポイントなのですね。

 

 

 

人事評価内の《コンピテンシー》と紐づけたセルフ・キャリアドック

 

その両輪を回していくためには、面談の種類に気をつけなくてはいけません。セルフ・キャリアドックで扱う面談(キャリアコンサルティング)は2種類あります。

 

一つ目は、「解決的な面談」。これはたとえば、「夫が転勤になりまして、ついていくか、いかまいか・・・ついていくとなれば退職しなければいけなくなるし、昇進したばかりなのに悩んでます」とか「新しい上司になってから最近仕事にぜんぜんモチベーションが上がらなくて・・・」とか、そういったご相談に対して、キャリア形成の阻害要因を見定めて、その解決を図る面談です。よって、従業員は「これを相談したい、これをなんとかしたい」という、いわゆる主訴を持って、自ら自発的に来談します。

 

二つ目は、「開発的な面談」。こちらは、従業員の主体的なキャリア形成を前進させるための面談。そのために、キャリア形成プロセスの点検を行い、課題を明確にして、その課題達成を目指して支援していきます。

 

セルフ・キャリアドックでは、主にこの開発的な面談を行います。開発的な面談においては、来談者に「これ悩んでるんです」てきな主訴はあまりないため、「言われたので来ました」といった非自発的来談者が多いのが事実(キャリアコンサルタントとしては難易度が高いです)。切実な悩みがないため、積極的に自分事化するのにちょっと難しい傾向があります。

 

ですが、人事評価と紐づけたセルフ・キャリアドックにするとどうでしょうか?

 

現在、人事評価内の指標として《コンピテンシー》を導入している企業様が増えています。そのコンピテンシーを従業員が積極的に開発・向上していく要素に設定すると、従業員は自分事化しやすくなり、取り組みやすくなっていきます。

 

コンピテンシーとセルフ・キャリアドックを組み合わせ、各従業員がそれぞれ設定しているコンピテンシーの向上を図る研修プログラムを実施し、キャリアコンサルティング面談と組み合わせることで、従業員が自分事化して主体的にキャリア開発ができ、人材育成ビジョンのさらなる具現化の後押しができる・・・そんなセルフ・キャリアドックを導入は離転職の助長にはつながらないどころか、ホールの言う「積極的行動と高業績」を生み出すでしょう。

 

弊社ではそのようなセルフ・キャリアドックをこのたび開発しました。

 

 

自信作です笑。従業員様のキャリア・能力開発、人材育成への活用にご興味がありましたら、お気軽にお問合せください。ではでは^^

 

 

 

※参考文献:『セルフ・キャリアドック入門~キャリアコンサルティングで個と組織を元気にする方法~』高橋浩・増井一著、金子書房、2019年

 

 

(おしまい)